時には逆の立場で
2011.11月号
手術の後など口から食事ができない、または不十分な栄養しか摂れない患者さんには、消化器管内に管を挿入し流動食などを直接注入することがあります。多くの場合、鼻から胃の中へシリコンのチューブを挿入することになり、胃を意味するドイツ語の「マーゲン」からマーゲンチューブ、胃管などといわれています。
職場では日常的に行われているこの方法ですが、入院手術の経験がない私は体験したことがありませんでした。そこで、自分たちが経験したことのないことを他人様に行うのは・・・ということもあり若いスタッフと相互実習を行ってみました。患者さんには「のどのところまで着たらゴックンと飲み込んで下さいね」などと気楽にお願いしていましたので、鼻からうどんを食べるようなイメージを想像していましたが、とんでもありません。のどにチューブが触れるとむせますし、苦しくて涙が止まりません。とても飲み込むどころではありませんでした。もう無理だから止める、いやもう一度、などと行きつ戻りつした後「お!もしかしたら入ったかも・・・」それこそ泣きが入る前に何とか実習の目標に到達することができました。
体験談などによりますとそのうち慣れるというご意見もありましたし、多くの患者さんが何食わぬ顔をしてらっしゃいますが、これを何日も留めておくなどとてもできないと感じました。そして、せっかくお腹の中に入ったのでちょっと何か頂いてみましょう、ということでお水を入れてもらいましたが、これまた胃に直接ポタポタと流れる感触は独特なものです。もちろん味が判るわけもなく、ちょっと冷たいなと温度を感じるぐらいです。僅か数分が1時間にも感じられたところで、もうそろそろお願いしますとチューブを抜いてもらいホッと一息、患者さんご本人がどれほど苦労されていたのかを思い知らされました。
今回のことに限らず、時には患者さんの側になってみることも相手の気持ちが分かる医療者として必要なのだと痛感しました。今度はもう少し優しくなれるかもしれません。