三重苦
2012.9月号
ある日、予約外で歯痛の50代男性患者さんがいらっしゃいました。下の奥歯が原因ですが頬も少し腫れており残念ながら抜歯が必要な状況でした。通常であれば抗生剤を一旦服用していただき症状を落ち着かせてから、後日抜歯を予定するところですが、忙しい方のようでご本人の強い希望もあり当日に抜歯をさせていただきました。これで一件落着かと思われたところですが、翌日腫れが更にひどくなり連日の来院となってしまいました。症状が強い時期に抜歯を行うと急性発作を生じることがありますので、ある程度想定内でしたが開口量も制限され食事も摂りにくいようでしたので、大事を取って入院加療をお願いいたしました。
さて入院二日目、抗生剤の点滴により症状は増悪していないものの、膿瘍形成が認められたため口腔内より切開排膿処置が望ましいタイミングとなりました。ところが口が開きづらいため、なかなか器具を操作することができません。患者さんご本人も辛そうです。それでは、炎症の詳細を把握するためにMRIを撮影しましょう、ということで放射線科にお連れしようとしましたが、ちょっと様子が変です。
「実は、閉所恐怖症なんです・・」これは新しい情報でしたが、鎮静法を併用することで解決できると考えました。うとうとお休み頂いた状態で装置に向かいましたが、ご経験ある方はお分かりでしょう、MRIのブーンという音は結構大きいもので、浅い鎮静では、うなされた様になってしまいじっとしていることができず十分な画像が得られませんでした。
「なかなか難しいですね・・」と外来診療室に戻りましたが、鎮静しているので口はもう少し開けさせてもらえるかもしれない、ということで口腔内の奥の方を診査しようとしましたが・・
「オエ・・!」もう一つおまけがありました。結局開口障害、閉所恐怖症、嘔吐反射により止むを得ず手術室で処置を行うこととなりました。外見は屈強な男性ですが、意外な弱点があるものです。