周術期口腔機能管理、その後


2016.11月号


 2012年に鳴り物入りで歯科保険診療に導入された周術期口腔機能管理ですが、聞くところによりますと、ある全身麻酔担当の先生が余りにも口の中が汚れていて挿管を躊躇する思いだったことがきっかけの一つだそうです。手術前後の口腔管理により、術後合併症の発症を可及的に減少させることを目的とし、現在のところ主にがん患者を対象とした算定要件となっています。 
当院を含めた病院歯科14施設による共同研究が現在進行中ですが、ベースライン研究として入院中に肺炎を発症したケースをDPCデータより抽出し調査しました。ポイントをいくつか御報告させていただきます。先ず、2010年度~2013年度の入院患者全体(約43万人)の中で入院中に新たに肺炎を発症した患者数は1.5%程度です。そして、肺炎を発症することによって在院日数は22.5日延長(14.1日→36.6日)することが分かりました。もちろん周術期口腔機能管理導入前後の比較では、がん患者の肺炎発症率の減少(1.6%→0.7%)を認めています。更に今回の調査で脳卒中患者の肺炎発症率が5.4%と平均より高く「がん」以外にも口腔機能管理が必要とされる疾患があることが示唆されました。脳卒中患者においては、肺炎を発症したために発生した医療費増加分は1日1人あたり4.6万円と試算され、医療経済学的にもかなりの損失と考えられます。今後は、周術期口腔機能管理の介入が効果的な対象患者の調査、適切な介入方法の検討などを行っていく予定です。
当院では既に「がん」以外の周術期患者にも口腔機能管理を行っていますが、6月より外科・リハ科・説明外来と協働し、手術決定後入院前からの介入を開始するシステムをスタートさせました。入院は手術の前日となることが多いのですが、口腔環境が劣悪な場合には、直前の口腔ケアのみでは十分な効果が期待できないと思われます。入院予定日まで余裕があれば、もっと口腔内を改善し大事な手術に集中して頂けるはずです。かかりつけの先生がいらっしゃる場合には積極的に、入院前に口腔内の診査を依頼させて頂きますので、ご協力よろしくお願いいたします。

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