特養のランチタイム
2018.7月号
月に一度、歯科医師会の先生方が特別養護老人ホームで入所者の食事観察をさせて頂く、いわゆるミールラウンドに同席する機会があります。私の現在の仕事環境は、外来通院と入院されている患者さんへの対応ですので、施設入所者の食環境を実際に拝見させていただくことは非常に貴重です。90歳を越えても自力で箸を上手に使いこなし常食を食べられる方、車いすで座位を維持し食事の介助を必要とされる方、言葉を発することこそありませんが、口元にスプーンを近づければ唇も開き、テンポ良く摂食していただける方。一方では、調理されたものを目の敵にして投げ付けたり、食べて頂きたくてもどうにもこうにも口を開けてもらえず、ようやく口の中に食事が入っても吐き出されたり、むせてしまったり・・・様々です。このように十人十色の個性を見極め、手際よく介助されている職員の方々は本当に卓越した技術をもってらっしゃいます。そして、思うように事が運ばなくても決して笑顔を絶やさず、明るくふるまう姿は人間として見習うことばかりです。
人間の最後まで残る欲は「食欲」だそうですから生きるための本能とも思われますが、体の入り口である「口」は外界からの攻撃を防がなければならない敏感な領域でもあります。介助される方は敵と思われずに、ご本人の「食欲」をうまく引き出すことをいろいろと考えているのだと思いました。料理は口から頂くものだということを忘れてしまったり、食べたくても上手く飲み込めなくなってしまったり、食事をほぼ無意識に行っている健常者からは何が起きているのか?と思うところですが、高齢者の「食」を支える多くの地域歯科医師の方々がこの分野で貢献されていることも、現場を観させていただき実感しています。三度の食事が辛い時間にならず、生きるためだけではなく、少しでも楽しいひと時となるよう願っております。