鼻から歯が生える?
2020.9月号
歯科口腔外科 齋藤浩人
学校が夏休みになると、歯列に影響がでるため過剰歯を抜いてください。という依頼が多く来ます。過剰歯とは通常の歯の本数よりも多く形成された歯のことで、一番よく見られるのは上顎の前歯部です。今年も8月だけで4件ほど全身麻酔の予定が決まっています。
そして「過剰歯を放置することにより鼻から歯が生えることがあるのでしょうか?」とよく聞かれます。
つい先日、耳鼻咽喉科より「70代男性の右鼻腔内に何か出来ている。硬くて歯が疑われるが、鼻腔からの抜歯は出血の可能性もあるため診察してほしい」と連絡がありました。口腔内を診察した所、総義歯であり、もうすでに歯は全部ありませんでした。CTなどから鼻腔内に萌出している逆性歯および上顎嚢胞と診断。全身麻酔下にて耳鼻咽喉科と合同手術を行いました。手術は口腔内から囊胞を摘出し、鼻腔内より抜歯しました。摘出した歯は内部吸収をおこし、病理検査では、含歯性嚢胞の二次感染との結果でした。そこでかかりつけ連携医の先生に問い合わせし、過去のパノラマ写真を発見。なんと今回見つかった位置とは違い、上顎骨内に歯牙をみとめ、炎症を起こした際に鼻腔方向に移動したと考えられました。
過剰歯は周囲の永久歯との状態を考慮して6歳前後で抜歯されるケースが多いですが、その中でも上顎前歯部埋伏過剰歯が逆性となる頻度は35~84%と報告1)され、鼻腔内過剰歯は1990年以降、47例2)しか報告されていません。この割合から考えると通常は鼻腔からの萌出前に抜歯されていると考えられます。今回のケースは大人になってからの萌出?ですが、上記の質問、わたしはYESと答えています。
1)佐野哲文ら:上顎前歯部過剰歯の臨床的検討. 小児歯誌 52(4):487-492 2014
2)玉井那奈ら:鼻腔内および上顎正中に逆性過剰埋伏歯を認めた小児の1例. 近医誌 41:91-95 2016